
俺はファッションが好き”だった”。
社会人になって金銭的な余裕が生まれ、学生時代に服を買い漁ることができなかった反動からか、ユニクロ・GUから始まり、ZARAなど安いけど少し尖ったブランドへ。その後は駅ビルなどに入りがちなBEAMSやSHIPSなどを経て、最終的には尖りの最高峰(?)と言っても過言ではないヨウジヤマモトへたどり着いた。ヨウジヤマモトではたぶん50万円ほど散財した気もするし、たぶん4年足らずで100万円は浪費した。
リアルにこういう恰好で歩いてた。知らない人からするとマフィアでしかない。

そんなこんなで割とファッションにはこだわってきたつもりで、服好きの気持ちもめちゃくちゃよく分かる。にもかかわらず、そこまでの馬鹿がなぜ服に飽きてしまったのか。
近年のファッション業界への個人的な意見も踏まえて、少し語ってみようと思う。
お付き合いいただければ幸いだ。
ユニクロの品質が高すぎる

これは最近、というか10年以上前ぐらいから言われていることだが、ユニクロは使用している素材のランクと服の価格が良い意味で全く釣り合っていない。
例えばこの商品

スーピマとかよく分かんないけどコットンだから要は綿なんでしょ、程度の認識の人が多いと思うが、実はスーピマコットンは最高クラスの綿素材。
そんな最高級の綿を使ったTシャツをユニクロは1,990円で発売している。
他のブランドを見れば分かるが、同じスーピマコットンを使用したTシャツだと5,000円以上するのが当たり前

もうちょっと上のブランドなら10,000円を超えるものも少なくない。

それをユニクロは大量生産によって2,000円以下に抑えるどころか、セール時期であれば1,490円に、更に値引きされれば990円で売られることも珍しくない。
スーピマコットン以外にも、メリノウールやカシミヤ、ヨーロッパ産のプレミアムリネンなど、とにかく素材にこだわった商品が多く、他ブランドと比べて圧倒的に安い。
ユニクロ公式サイトでも素材などのこだわりについて紹介しているので、興味があればぜひ読んでみて欲しい。

が、もちろん服は素材が全てではないし、むしろ服好きからすればデザインの方を重要視する人も多いだろう。俺ももちろんそっち側。
ということでユニクロのデザイン性について掘り下げてみる。
ユニクロは時代に合わせて微妙にデザインを変えている

ユニクロを嫌う人が言いがちな
「ユニクロの服はどれも同じで面白くない。シンプル過ぎるし、流行に合わない。」
だが、これは半分正解で半分誤り。
というのもユニクロは同じ型を大量生産するためどうしても万人受けするシンプルなデザインになることは致しかないが、実は毎年少しずつデザインや素材を変更し、流行に合うように、平たく言えば”古臭い”印象を持たれないようにしている。
例えばビッグシルエット(大きめの服)が流行する兆しがあれば、同じMサイズでも少しずつサイズを大きくしたり、ラフでカジュアルな印象が好まれるようなら、素材を光沢が弱いものに変更したり、様々な工夫を凝らしている。
これは筆者の想像だが、ユニクロは毎年パリコレやミラノコレクションにデザイナーを派遣し、流行を掴むような努力をしているだろうし、おそらく社内に相当な服好きが居て、各ブランドの新作を全てチェックした上で、極めて正確に流行を予測している。
そうでもしなければ絶対にできないレベルの修正を続けているし、ユニクロを適正サイズで着ていて、かつ数年ごとに買い替えていれば、よほど変な着こなしをしない限り古臭く見られることはほぼない。
だから、他の人と被ってもいいから若く見られたいとか、オシャレじゃなくてもいいからダサく見られるのは嫌みたいな、おそらく大多数の服に興味がない人間の需要を満たしてくれるはず。
それでも少しはデザイン性に富んだ服が欲しい人もいるはず。
そんな人のためにユニクロが出した答えがUNIQLO U(ユニクロユー)だ。
UNIQLO Uの誕生

ユニクロが2016年から毎年続けているコラボのことで、フランスの有名デザイナー(興味がある人は自分で調べてね)を迎えて、ユニクロの上質な素材を使いながら、大量生産による低価格でもデザイン性に富んだ服を楽しめるようにしたもの。
これがもう毎年新作が出るたびに飛ぶように売れていて、人気商品はメルカリで転売祭りが起こる始末。
でもそれも致し方なくて、先に述べたとおり有名デザイナーが作った服をユニクロの上質な素材で製造して、それが安いものなら数千円。コートやジャケットなど高いものでもほぼ2万円以下で楽しめるんだから、売れて当たり前。
服好きなら当然知ってることだろうから詳細は省くけど、このUNIQLO Uの誕生によって、ユニクロは服に興味がない層からそこまでお金は出したくないけどちょっとオシャレをしたい層を獲得することに成功した。
つまり、服にいくらでも金を出せる富裕層と絶対に人と被りたくない服好き以外の人間、という”ほぼ全ての人間を顧客にしてしまった”のがここ最近のユニクロだ。
これによってファッション業界でいま何が起きているのか。
二極化するファッション業界

ユニクロがあまりに広い層から顧客を獲得してしまったがために、現在ファッション業界ではブランドの二極化が進んでいるのではないかと感じる。
例えばルイヴィトンを代表とする巨大グループLVMHでは2023年に最高売上(2025年は米国などの不況により微妙な業績)を記録しているし、逆にTEMUやSHEINなど格安の中国ブランドも爆発的に売り上げを伸ばして急成長を続けている。
反対に、高級でも格安でもない中間的なブランドは業績不振や倒産が相次いでる。
それもそのはずで、彼らには高級ブランドほどのブランド力がないし、逆に価格勝負では格安ブランドには絶対勝てない。はっきり言って素材もユニクロと同レベルだろう。
かと言って素材のランクを上げれば、その分のコストを価格に転嫁することになり、価格だけ高級ブランドになってしまう。そんなものは誰も買わない。
だから中間的なブランドは、例えば有名インフルエンサーとコラボして発信力を高めたり、素材レベルを落としてでもユニクロと同価格帯でデザインを売りにしたり、様々な工夫を凝らして、何とか戦っているというのが現状だろう。
基本はユニクロ、金があるならハイブランド
ということでユニクロは素材だけなら高級ブランドとも張り合えるレベルになりつつあり、オシャレに興味がない人からちょっとはオシャレしたいぐらいの大多数の人間はユニクロ以外を買う理由がないのではないだろうか。
もしくはハイブランドという選択肢もアリ。

「Louis Vuitton」とか「Gucci」とかデカデカとブランド名やロゴが入った如何にもなブランド品を買うことで、周囲に金持ってるアピールをすることができるので、これはこれでアリ。
俺が大好きなヨウジヤマモトみたいにブランド名はなくても一瞬で分かるレベルで独創的なブランドに行くのも良い。一度袖を通してみればなぜあんな高価な服が売れ続けているのか分かるはず。ぜひチャレンジして欲しい。
もちろん
絶対に人と被りたくない、人と同じ服を着るぐらいなら外出したくない
レベルの変態的な服好きの皆さんは好きにすればいい。それは趣味だから。好きなものはとことん突き詰めるべき。
が、ほぼ全ての人間にとっては、ユニクロが最大公約数的な存在であり、常に70点以上をキープしてくれるもはや生活必需品のようなお店なのではないだろうか。
尖った服を作らないから多くの人に受け入れられやすい上、素材も高級ブランドに匹敵するレベルで、最近はデザインもかなり良い。こんなブランドが売れない訳がない。
これからもユニクロの牙城は揺るがないどころか売上を伸ばし続けるだろうし、トランプ大統領の影響で世界情勢が見通せない今、節約志向とインフレも追い風になって世界中で今以上にブランドの二極化が進んでしまうのではないか。
その先に待っているのはファッションという存在の意義の希薄化であり、果てはファッションを無駄なものと捉える潮流が起きることになりかねない。
しかしながら、無駄なものに価値を見出すことこそが文化であり、タイパやコスパとは一線を画すもの。
服飾文化の希薄化はこれからも止まらない気がするけれど、現代の絵画や彫刻のように一部の人に根付くのではなく、誰でも気軽に始められる趣味として残り続けてくれたら良いなと願う次第。
以上、長々と読んでくれてありがとう。